<今月の禅語>     〜朝日カルチャー「禅語教室」より〜


   龍吟雲起 虎嘯風生 (周易)

    龍吟ずれば雲起こり 虎嘯けば風生ず



 龍がうめき、啼けば雲が湧き立ち、虎がほえれば風が吹き起こるような

凄まじさの情景を表す言葉である。昔より龍は神獣・霊獣であり、中国では

皇帝のシンボルとしてあつかわれたようだが、人々は霊夢の中に龍を見たり、

龍の霊力に与って事を成就させたと言う話はよく聞かされとことである。


 龍と雲はつきものであり、龍は水中とか地中に棲むと

されることが多いが、その啼き声によって雷雲や嵐を呼び、

また竜巻となって天空に昇り自在に飛翔すると言われる。

 京都五山など禅宗本山の法堂の天井には大体、大きな

雲龍図が描かれている。我が本山の大徳寺の法堂にも

狩野探幽の雲龍図が描かれて下から柏手を打てば

ビユ〜〜ンと吟じるようにひびく啼き龍となっている。

 その龍に対する虎も猛虎にふさわしく虎がひとたび吠えれば、まるで風を

吹き起こすようなその凄まじさにおののき小獣は逃げ出してしまう迫力こそ

「虎嘯けば風生ず」である。この龍と虎の勢いや迫力を禅門では優れた力量

互角の禅者、英傑の相対する禅問答などに一方を龍にたとえ、もう一方を

虎にたとえて龍虎対決という表現に用いる。


 もうそこには第三者が入り込む余地はない

緊迫した互角の器量と器量者のぶつかり合い

である。巌流島における真剣勝負で交えた

武蔵と小次郎の場面もまさに「龍吟じて雲

起こり、虎嘯いて風生ず」だったことだろう。


 大徳寺所蔵 牧谿筆 龍虎図

 以前、大相撲に竜虎と言うしこ名の関取がいたが、いささか迫力に乏しく

名前負けの感があったが、横綱・朝青龍と白鵬の優勝をかけた全勝同士の

対決は固唾をのんでしまう緊張と迫力あった。この一戦なども龍虎対決に

違いない。将棋の羽生善治名人と谷川浩二九段の対極、プロ野球の松坂大輔

とイチローの対戦等、それぞれの世界で竜虎対決はあり「龍吟ずれば雲

起こり、虎嘯けば風生ず」の場面はこれからも見ることが出来るだろう。




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